†某オリジナルSF漫画の外伝小説†





      暗闇の中で幼い少女が一人泣いている。
      少女の慟哭と哀しみで、暗黒の世界が揺れていた。
      「‥‥なぜ、泣いている?」
      <オレ>は少女を怖がらせないよう、そっと語りかけた。
      「‥‥お母様が…亡くなってしまったの‥‥‥」
      少女は嗚咽の中から語り出した。
      「私が悪い子だから、私のせいで死んだんだって‥‥メイド達が
     話してたの‥‥。私、どうしたらいいの? 私が死ねば お母様は
     生き返る?」
      幼すぎる少女には【死】という概念すら はっきりと認識できて
     いないに違いなかった。
      「お前が死んでも母親は生き返らない。どんなに哀しくても死ん
     だ者は生き返りはしないのだから、お前が自分を責めて泣いてばか
     りいては、逆に母親が哀しむだけだ」
      「‥‥私が泣いてばかりいては お母様が哀しむ‥‥?」
      少女は俯いたまま、<オレ>の言葉の意味を考えるように繰り
     返した。
      「ああ。人の哀しみは更なる不幸と哀しみを呼び込んでしまう事
     があるからだ。
      「ほら、見てごらん。世界が不安定に揺れている」
      <オレ>は少女に【世界】を指し示す。
      「‥‥世界が揺れる‥‥‥。」
      少女は揺れている【世界】を見渡すと、今度は弾かれたように
     <オレ>を見上げた。
      「この揺れは、私が泣いて哀しんでいるからなの?」
      「そうだ。お前が笑えば【世界】も安定するし、俺もお前が笑っ
     てくれれば嬉しい」
      <オレ>の言葉に、少女は初めて微笑み返してくれた。
     それはまるで、まだ咲き初めぬ大輪の花の蕾が、微かに色付いた
     時に似ている。
      「じゃあ私、これからは泣かないようにする。」
      まだ母親の死の哀しみが拭い切れていないであろう少女は、それ
     でも一所懸命 笑顔を取り戻そうとしていた。
      「所で、ここはどこなの?どうして私はこんな場所にいるの?」
      少女は落ちつきを取り戻すと、今初めて この暗闇に気付いたよ
     うだった。
      「ここへ来たのは初めてか? ここは異空間の中だ。俺達はテレ
     パシーという精神体のみで会話をしているだけで、この空間は実際
     には存在しない。つまり、俺達は物理的に まだ出逢っていない事
     になる」
      「‥‥??」
      自分の持つ能力にさえ気付いていない幼い彼女は小首を傾げて
     いる。
      「いずれ、もっと大人になれば ここがどこなのか分かるさ」
      「うん。‥‥じゃあ次は、あなたの名前を教えて? 私の名前
     は‥‥‥」
      「しっ!」
      <オレ>は少女の言葉を制止する。
      「名は名乗らなくていい。今 俺の力はひどく微弱で結界を張
     る力さえ無いんだ。だから今この場所には俺達二人以外に、もう
     一人《視 (み) ている》奴がいる。“ここ”にな」
      そう言うと<オレ>は自分自身を指差した。
      「お前の名前は いつかお前と出逢った時に訊くから、今は
     大人しく返れ」
      「うん」
      <オレ>の言葉に、少女は無邪気な笑みを浮かべる。
      アーモンド形の大きな瞳は疑う事を知らない天使の宝玉のよう
     だった。
      大人の醜い世界ばかりを見てきた<オレ>は、この世にこれ程
     清らかで透明に輝く微笑みを見た事はなかった。
      「いつか必ず、お兄さんと私は会えるよね? 約束してくれ
     る?」
      「ああ、約束する。もし出逢う運命でなかったとしても、俺が
     必ずお前を見つけてやる」
      少女は更に微笑むと、一瞬にしてこの空間から消えた‥‥‥。
      <オレ>だけが暗闇に【一人】残っている。
      「さて、“お前も”俺の中から消えてもらおうか」
      <オレ>は自分自身に そうつぶやいた。


 
      ―――――――目覚めると、そこはソファの上だった。
      どうやら僕は うたた寝をして夢を見ていたらしい。
      たが、身体に残るこの感覚は睡眠をしていたのではなく《力》
     を使った後の開放感に近かった。
      まさか―――――――――――――――。
      僕の心に動揺が走る。
      まさか、僕は《ESP 能力》を使って他人の精神体へ入り込み、
     その映像を覗 (のぞ) き視ていたのだろうか‥‥‥?
      だとしたら、あの少女が微笑みかけた相手は僕ではなく、他
     の誰かになのだ。
      つまり、少女の透明な微笑みは僕のモノではなかったのだ。
     そして勿論、少女との再会の約束も。
      激しい嫉妬と悔しさが僕を襲う。
      生まれながらにして地位や財力・容姿にも恵まれ、高いESP
     能力を有する僕にとって、世界の全ては いずれ僕のモノにな
     る筈だった。
      それなのに、世界が僕のモノであったとしても、あの少女だ
     けは僕のものではないのだから‥‥‥‥。
      だが‥‥、と僕は思い直す。
      あの男よりも先に彼女を探し出し、僕が先に名乗りを挙げ、
     彼女に名前を訊けば良いのだと。
      そう、例えどんなに汚い手を使ってでも僕は彼女を探し出す。
      そして僕はこの先何年も その閃 (ひらめ) きに酔いしれ続け
     るのだ。
      いつか来る、少女との【再会】を夢に見て‥‥‥‥‥‥‥。


                              終わり





金髪美形悪役の【総裁】サマの外伝(少年時代の裏話)なんですが‥‥‥。






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