*「地球へ…」短編1(キース視点)*



◇ 解放の呪文 ◇



         「‥‥‥コーヒーを頼む、マツカ」
         ――――― だが、それに応えてくれる者は、もう居ない。
         機械の申し子とまで噂されている私が、まるで壊れた時計
        のように、同じ時間に止 (とど)まっている。

         マツカは私にとって存在してはならないバケモノであり、
        また同時に、本当のキース・アニアンを知ろうとしてくれた
        唯一の存在だった。

         少年期から青年期を共に育んだ友人サムとも違う。
         私に人間としての感情を呼び起こしたシロエとも違う。

         ‥‥‥‥ただ静かに私の側に立ち、私が感情のままに生き
        る事を望んでくれた者。

         私の被 (かぶ)った力強い完璧な指導者の「仮面」に、マザー
        すら気付いてはいなかったが、マツカ、お前だけが仮面の下
        にある、私の偽 (いつわ)らざる心を知っていてくれたのだ。

         だから私は狂わずに済んだのかもしれない。

         幾度お前に『私の心を読むな、心に触れるな』と言っただ
        ろう‥‥‥?
         私自身、気付いてはいなかったが、あれは私なりのレトリ
        ックだったのだ。
         心の奥底では、誰かと心を通わせ、触れて欲しいと願って
        いたのだから。
         マツカ、お前がミュウだから私の本当の心に気付いたので
        はない。
         お前が私を心から知ろうとしてくれたから、私が お前にだ
        け心を開いていたのだと今なら分かる。
         そうでなければ、ミュウの長ジョミー・マーキス・シンが
        とっくに私の本心に気付いていた筈なのだ。

         マザーによる、人工卵子で生まれた女の遺伝情報を使って
        誕生した私は、ミュウ以上の異端な存在なのかもしれない。
         だからこそ、人類を導く為だけに生まれた私が、私の存在
        理由を放棄する事は出来なかった。

         「パーフェクト」と呼ばれ、人間らしい感情を切り捨てね
        ばならなかった私に たった1つ残された良心 ―――‥‥。
         それが お前だったのだ。 マツカ‥‥‥。

         今ある私は、お前の犠牲によって生き長らえた命だ‥‥。
         いつかお前に顔向け出来るように、私は残りの人生を生き
        られるだろうか?
         いや、生きねばならぬのだ。
         人類と機械とミュウとの戦いが、どう終結しようとも、私
        にしか出来ぬ事を成すことが、生き残った私の使命なのだか
        ら。

         マツカ、待っているがいい。
         私はきっと お前が笑顔で迎えてくれる素のままのキース・
        アニアンとして お前の許へ行けるだろう。

         そうして私は、機械で造られた螺旋 (らせん)の呪縛から やっと
        解放されるのだ。

         人間の『テラの子』として ―――――― ‥‥‥。  




                                   終





        この作品の設定はアニメ最終話デス。キースがミュウの生
        まれた経緯を人類に教える為、メッセージを録画する事に
        決めた「心の機微」を妄想したものなのですが‥‥。






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