†「まるマ」パロディ短編・1(ユーヴォル)†



◇ プーのジャリ日記 ◇


       ある日のこと。
       ユーリが朝のロードワークを終え自室へ戻ってみると、起き
      たばかりらしいヴォルフラムが、絹のネグリジェ姿のまま手鏡
      を見ていた。
       その手鏡は最近手に入れた物なのか、ユーリには全く見覚え
      のない物だ。
       手鏡の大きさは15cm程だが、手で持つ柄 (え)の部分を入れる
      と20cm位はある。
       どうやら金細工で出来ているらしく、遠目で見てもその手鏡
      が金色に光り輝いて見える。
       そして所々に黒い宝石の黒真珠だかオニキスだかが嵌 (は)
      込まれているようだった。
       ヴォルフラムはその手鏡を見詰 (みつ)め、うっとりとしている。
       ユーリが部屋に戻って来た事にすら気付いていない。
       そして徐 (おもむろ)に顔を手鏡に近付けると、瞳を閉じて手鏡に
      キスをしたのだった。
       そんなヴォルフラムの姿を見てユーリは
       『うわわ〜〜、やっぱ美少年てナルちゃんなのか。そりゃあ
      あれだけの天使の容貌なら自分の姿に見惚れちゃっても しょう
      がないか‥‥‥』と思った。
       ユーリはクルリと方向転換すると忍び足で居室から抜け出る。
       あんな場面を見てしまうとヴォルフラムに声を掛け難 (にく)
      し、きっとプーの方だってあの行為を見られていたと知ったら
      恥ずかしいだろうと思ったからだ。
       ユーリはそのまま魔王専用の大浴場へ向かい、汗を流す事に
      したのだった。 



       ユーリは足早に自分の居室へ戻った。
       大浴場で身体を洗い、汗を流して さっぱりとしたのだが、
      女官の女の子が用意してくれた洗いたての服に袖を通している
      時に、チクリとした痛みが目に走ったからだ。
       恐らく睫毛 (まつげ)が抜けて、眼球に ひっついてしまったに
      違いない。
       服を用意してくれた女官の女の子も、ユーリが着替える時に
      は人払いをしているので、浴場にはユーリ以外誰もいなかった。
       その為、鏡を持って来てもらう事も出来ず、ユーリは自室へ
      の道(廊下)を走るしかないのだ。
       勿論、大浴場にも鏡はあったけれど、痛くて片目を閉じた状
      態のままで濡れた浴場を歩くのは危ないので、こうして居室へ
      急いでいるのだ。
       “バタン!”
       勢いよくドアを開けると、ユーリは同居人の名前を呼ぶ。
       「おい、ヴォルフ! 鏡、鏡貸してくれよ!」
       大声で呼んでみたものの、部屋は静まりかえっており、ヴォ
      ルフラムが部屋にいる気配はなかった。
       「‥‥‥ヴォルフ? ‥‥‥‥‥‥いないのか?」
       ふと見ると、サイドテーブルの上に先程ヴォルフラムが己の
      顔を見ていた手鏡が置いてある。
       鏡の面はテーブルに伏せてあり、豪華な細工の面が上になっ
      ていた。
       『うわ、近くで見ると更にキンピカでゴージャスな手鏡だな。
      いくら位するんだろ? どこぞの美術館が欲しがりそうな芸術
      品だよな〜。 いいや、これ借りちゃお』
       そう思ってユーリは手鏡を手に取り、裏返して鏡の面を表に
      向けたのだったが‥‥‥‥‥。
       「ゲッ!! 何これ!?」
       鏡であろうと思っていた面にあったのは‥‥‥。
       「これって、信楽焼のタヌキじゃん!!」
       ユーリは驚きでフリーズ化状態になる。
       てっきり鏡だろうと思っていた物が、実は精巧に描 (えが)かれ
      た細密画だったのだから驚くのも無理はない。
       つまりユーリが今 手にしている物は絵画なのだ。
       金とオニキスの細工を施された芸術品と呼んで差し支 (つか)
      ない逸品 (いっぴん)に、設楽焼のタヌキの絵‥‥‥‥‥‥‥。
       ユーリは細密画を見詰めたまま動く事が出来なかった。
       『このタヌキの絵って‥‥、まさか‥‥‥いや、多分‥‥‥
      ‥‥そういや、ヴォルフはキスまでしてたよな‥‥‥‥‥』
       暗〜い予感にユーリが悩まされていると
       「自分の肖像画に うっとりしているとは、お前はナルシスト
      だったのかユーリ?」
       と、いつの間にか戻っていたヴォルフラムに声を掛けられた。
       「ユーリ、いくら見目が良いからと云って、自分の姿絵に惚
      れるのは魔王として どうかと思うぞ?」
       婚約者フォン・ビーレフェルト卿ヴォルフラムの言い様に
       「違うだろう!? 俺はナルシストなんかじゃねーし、だい
      たい、これのどこが俺の姿絵なんだ〜〜〜っ!?」 
       と、魔王陛下は目の痛みも忘れ、吼 (ほ)える事しか出来なか
      った。



      ○月○日のジャリ日記。
      ユーリは今日、自分の肖像画を見て うっとりしていた。
      あれだけの可愛い容姿なら、ナルシストと言うのも頷 (うなず)
      けるが、婚約者のぼくとしては複雑な気分ジャリ。
      それでなくとも尻軽のユーリが、いつになったら婚約者とし
      ての自覚に目覚めてくれるジャリか‥‥‥‥。
      他の者ならまだしも、美しいユーリ自身が恋のライバルでは
      ぼくに勝ち目は無いジャリよ‥‥‥。
      何故、おまえはそんなにも可愛くて美しいジャリかユーリ?



       密かに綴 (つづ)られ続けた このジャリ日記を読んだ者は、
      本人以外にいなかったと伝わる幻の日記である。



                               終



      これはWebコミックにするつもりだったギャグ系ストーリィ
      です。シリアス好みの方には不向きだったかもしれません。
      次回は甘々系のお話を目指したいと思います。 





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