†「まるマ」妄想パロディ・1(ヴォルフ視点)†


★この作品は大変暗いお話なので、ハッピーエンドがお好きな方は御注意下さいませ。



◇ 運命という名の下に ◇


        これは私、治世100年目になる第28代魔王の回想録である。

 
        当時、今から170年以上も前になるだろうか、私は男として
       まだ未成熟な、何も分かっていない我が儘 (まま)な少年だった。
        母上と、二人の兄の愛を一身に受け、恐れるものは何もない
       のだと自負していた傲慢 (ごうまん)な自分‥‥‥‥‥。
        その私の傲慢ぶりを見事に打ち砕いたのが前魔王にして、私
       が今もなお愛し続けているユーリだった。
        血盟城でユーリと初めて出会った瞬間の私の思いを、一体誰
       が解かるだろうか?
        私は彼の、清廉 (せいれん)なる美しさに息が止まる程の衝撃を覚
       え、ユーリから瞳 (め)を離せなかった。
        なぜなら彼は、存在自体が稀 (まれ)であると云われる双黒を身
       に宿した者だったのだから。
        あれ程に私の心を惹 (ひ)き付ける高貴な漆黒 (しっこく)を見たのは
       生まれて初めての事だった。
        そして次に私は、ユーリの疑う事を知らない純粋そうな顔と
       人柄に、何故か腹が立った。
        偉大なる眞王が建国した、選ばれたる魔族を統 (す)べる魔王
       になるには、畏怖 (いふ)を感じさせる威厳 (いげん)と、才知に長 (た)
       けた如才 (じょさい)無い立ち振る舞いが求められるからだ。
        それなのにユーリは威厳どころか、庇護欲 (ひごよく)を掻き立て
       る存在にしか見えなかった。
        しかも噂によると、誰よりも高貴な双黒でありながら、新魔
       王は人間から産まれ、人間社会で育った魔族の仇敵 (きゅうてき)とも
       呼べる存在らしいのだ。
        勿論、あの頃 反発していた兄、コンラートが連れて来た者と
       いう事が、私の中でユーリの即位を反対する一因になっていた
       のも否めないが。
        また同時に『こんなに美しく脆 (もろ)そうな者は、誰にも見せ
       ずに宝箱にしまって、大切にしなければいけないだろう』と思
       えたのだ。
        後にして思えば、ユーリの正義感あふれる不屈の魂の強さを、
       この時の私は未熟すぎて見抜けなかったのである。
        『この美しい者に、魔王の重責はきっと耐えられない』
        それが私の新魔王に対する最初の評価だった。
        けれども本人には当然 庇護される側としての自覚はなく、
       私はユーリに、自ら即位を拒 (こば)むよう仕向けるしかなか
       った。
        その夜の晩餐で、私は隣りに座ったユーリのテーブルマナー
       を嘲笑 (あざわら)い、彼の母親を悪 (あ)し様に罵 (ののし)った。
        本当は、双黒を産む程の女性なら さぞかし美しく高貴な貴
       婦人に違いないと思ってはいたのだが。
        案の定、ユーリは怒ったが、彼の怒りは即位を辞退する所か
       私が予想もしていない方へと展開してしまう。
        「すてき、求婚成立ねっ」
        母上の、妙に はしゃいだ楽しそうな声が響き渡るまで、私
       は何が起こったのか、自分に降り掛かっている事態が何なのか
       を直ぐには認識出来なかったのだ。
        ‥‥‥‥‥あまりにも驚き過ぎて。
        彼の母親を罵った私の左頬を、怒ったユーリは平手で打った。
        その行為は眞魔国において、古式ゆかしい求婚の作法だった
       から、私はユーリに求婚された事になるのだ。
        ‥‥‥‥‥この出来事が、後に第28代魔王となる私の、全て
       の始まりだった。
        だが今もって、それが偶然だったのか必然であったのかは解
       からない。
        けれど、わがままに育った私がユーリを怒らせ、正義感の強
       いユーリが私の左頬を打つ事は、彼をチキュウ世界で育てさせ
       た眞王ならば未来予想可能な出来事だったのでは ないだろう
       か‥‥‥‥?
        母上愛用の美香蘭の香りさえも、予 (あらかじ)め用意された演出
       のようにも思えてくる。
        とにかくこの求婚の一件以来、私の中にユーリという人物が
       心の奥深くまで根付き、170年以上経った今でも大輪の花を咲
       かせているのだ。
        あの晩餐の席で母上は私に
        「あら、じゃああなたが王位を継いでくれるの、ヴォルフ?」
       と仰 (おっしゃ)ったが、恐らく母上は既に、私が第28代魔王になる事
       を知っていたに違いないのだ。
        だから私が
        「ぼくなどより兄上のほうが、はるかにその地位に相応しい」
       と答え、兄グウェンダルを推挙 (すいきょ)すると、
        「眞王のお言葉に背いてたてた王が、どういう結果を招いた
       か、あなたも知らないわけじゃないでしょ」
       と、グウェンダルでは王位に即 (つ)けないと仰ったのだ。
        つまり第27代魔王陛下の次である28代目魔王は、兄グウェン
       ダルではなく、私、フォンビーレフェルト卿ヴォルフラムで
       なければならないと言う意味だった。
        ここで疑問なのが、ユーリよりも66年早く生まれた私が、な
       ぜユーリの次になるのかだが、それは恐らく、少年時代の私に
       は魔王として欠けているモノがあったからだろう。
        私が今日 (こんにち)魔王として立つには、ユーリという魔王の存
       在が必要不可欠だった事は、十貴族の者なら誰でも知っている
       周知の事実である。
        私はユーリと出会い、ユーリに惹かれユーリを愛し、ユーリ
       の伴侶として彼に相応 (ふさわ)しい者となる為に、それまでの固定
       観念をかなぐり捨ててユーリと共に成長して来たのだ。
        ユーリの婚約者であると云う事実が、いつも私を奮 (ふる)い立
       たせ、彼の隣りに立つ者として恥ずかしくない男になりたいと
       私は切に願い、その為の努力を惜しまなかったのだから‥‥‥。
        眞王は私に、本当の帝王学というものをユーリから学ばせた
       のだ。
        そしてユーリにも、私という共に歩む者が必要だったのだろ
       う。
        私達は恐らく出会うべくして出会ったのだ。
        ―――――― 運命という名の下 (もと)に。
        もしも、ユーリと出会わなければ‥‥‥。
        もしも、ユーリと婚約しなければ‥‥‥。
        もしも、ユーリを愛さなければ‥‥‥‥‥。
        今、私は第28代魔王として即位していなかっただろう。
        『もしも』という不確定な未然に終わった結果を、今更考え
       ても詮無 (せんな)い事だと分かってはいるが、私の人生はユーリ
       と出会ってから始まったと言っても過言ではないのだから、私
       は この『もしも』を、終生 問うことになりそうだ。
        “コンコン”
        誰かが来たらしい。
        “カチャッ”
        「おじい様、いらっしゃる?」
        春の妖精のように明るい笑顔で部屋に入って来たのは、私と
       ユーリの娘であるグレタが産んだ娘だ。
        私が部屋にいるのを見つけると小走りで近寄って来る。
        「そんなに走っては危ないだろう。お腹の子に障 (さわ)る」
        妊娠中の孫娘を心配して私が嗜 (たしな)めると、孫娘は小さな
       子供のように舌をだす。
        「おじい様は本当に心配性ね。それよりこの子の名前を考え
       て下さったかしら? まだ女の子か男の子かは分からないけれ
       ど、名付け親は絶対おじい様になってもらうって決めてるの」
        顔は母親のグレタよりも父親に似ているが、利発で明るい
       性格はグレタにそっくりだった。
        「この子もね、おじい様が近くにいると何だかお腹の中で少
       し動くようだし、おじい様が好きみたい」
        そう言って、膨らみ始めたお腹を優しく摩 (さす)る。
        孫娘はとても快活で、良い母親になるだろうと私は思った。
        「その子の為に、良い名を考えておこう」
        私の答えに孫娘は満足し、私の執務の邪魔をしてはいけない
       からと、早々に立ち去った。
        今、私の側には、愛するユーリもグレタもいない。
        人間であるグレタは、魔族の男との間に愛らしい娘を残し、
       91歳という天寿を全うした。
        『ちきゅう』と呼ばれる世界の遺伝子を受け継いだユーリも、
       人間の血を受け継いだにしてはかなりの高齢まで私の側にいて
       くれたのだが、やはり私達 純粋魔族の肉体とは違う為、ユーリ
       との別れは80年前に訪れた。
        かつて『ユーリ』と呼ばれた、愛しい男の魂は、1度地球で
       転生し、80年の時を越えて今また、こちらの世界で新たな転生
       の時を迎えようとしている。
        我が兄コンラートが、ジュリアの魂を見守った時のように、
       私もまた新たな生命 (いのち)の誕生を祝福するだろう。
        その子が素晴らしい人生を歩み、第30代魔王陛下となる日ま
       で、私はユーリが私に託してくれた、この美しい世界を守り続
       けるのだ。
        それが第28代魔王として生きた私の、ユーリへの愛の証しに
       なるのだから。
        私は書面に、ユーリの魂を持って生まれて来るその赤子の名
       前を書いた。
        『ユーリア(−Julia−)』
        人々に愛され、己の信念のもとに強く生きたジュリアとユー
       リの名前を、私は愛すべき小さな生命 (いのち)へ贈ろうと思った。
        そうすれば新たな命が、この世の誰よりも幸せになり、こ
       の世界の全てに祝福されるような気がしたからだ。
        私の半身とも呼べる愛しいユーリと再び出会える未来に、
       私は心からの感謝をするのだ。
        第28代魔王ヴォルフラムの名において、眞魔国が永遠 (とわ)
       なる安寧 (あんねい)の地にならん事を、私は生まれ出 (い)ずる小さな
       命に約束しよう。
        他ならぬ、おまえの愛したこの世界なのだから‥‥‥‥。



                               終



          今回はかなり暗いお話で、本編から逸脱したストーリーになっ
          てしまいました。 と言うか、妄想炸裂でヴォルフを第28代目
          魔王にしちゃいまいた。  しかも255歳位の設定にしたので、
          大人っぽくなるように「ぼく」を「私」にしてしまいました。 あと、
          このお話(一人称形式)の都合上、ヴォルフの事を傲慢と書い
          てしまいましたが、原作を読んでも今まで1度としてヴォルフの
          事を傲慢と思った事は無いです(大汗)。  次回は明るく ハ
          ッピーなお話にしたいと思います。 





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