†「まるマ」短編・2(婚約者VS王佐)†



◇ 陛下の○○は誰のモノ? ◇


        ユーリが地球の渋谷家に戻った頃、眞魔国の王城・血盟城で
       は、魔王陛下の婚約者と王佐による熾烈 (しれつ) なバトルが繰り
       広げられていた。
        「いいかげん離せ、ギュンター!!」
        「いいえ離しませんよ! 陛下 不在の今、これは王佐にし
       て教育係の私 (わたくし) が預 (あず) かるのがスジと言うものですか
       らね!」
        「何を言う! これは婚約者たる ぼくが預かるべき物だろ
       う!」
        婚約者と王佐の二人は朝からずっとこんな調子で、互いに
       一歩も譲ろうとはしなかった。
        そこへ、騒ぎを聞きつけたウェラー卿コンラートが仲裁とし
       て話に割って入る。
        「おまえ達、何をしているんだ? 女官や侍従達が怯 (おび)
       ているじゃないか」 
        コンラートは二人が取り合い、握り締めている物を見る。
        「‥‥‥その白い物は?」
        ヴォルフラムとギュンターは、白い小さな布を取り合ってい
       るのだ。
        「これはユーリがチキュウとやらから穿 (は)いて来た下着だ!
       だから婚約者であるぼくの管轄下 (かんかつか)に置く義務がある!」 
        「いいえ! これは王佐である私の手許 (てもと)にあって然 (しか)
       るべき物なのですっ!!」
        どうやらユーリが黒い紐パンで地球世界に戻ってしまった為
       に、こちらの世界に残された日本製の下着を二人は取り合って
       いるらしかった。
        もしこの事態を当のユーリが見ていたとしたら、男二人が男
       である自分の下着を取り合うと云う異様な光景に、のたうち回
       ったあげく悶絶 (もんぜつ)していたに違いない。
        「王佐が魔王の下着を管理するなど、聞いた事も無いぞギュ
       ンター!」
        「とにかく、この聖なる布は私 (わたくし)の物なのです! さぁ、
       手をお離しなさいヴォルフラム!!」
        どちらも引き下がる様子は無い。それ所か大人げ無くも、子
       供のようにグイグイと下着を引っ張りあっているのだ。
        「ギュンター! これはおまえの物ではないぞ! だいたい
       おまえにこれを渡したら、きっと毎晩よからぬ事に使うのだろ
       う? ぼくの婚約者であるユーリを汚 (けが)す事は許さない!」
        恋愛に関して子供並みの知識しか持たないヴォルフラムの
       言葉に深い意味は無く、単にヴォルフラムはギュンターが下着
       を枕の下に敷いて、毎晩ユーリの夢を見たいのだろう、と思っ
       て言ったのだ。
        勿論、それについては実の兄であるコンラートも可愛い弟が
       こと恋愛に関して、疎 (うと)い事を知っていたので『よからぬ事』
       の意味を敢えて深くツッコムつもりは無かった。
        しかし、大人なギュンターは胸の内を言い当てられたと勘違
       いし、大慌てだった。
        「わ、わたくしは、この下着を使って陛下をオカズにしよう
       などと不埒 (ふらち)な事を考えていた訳では‥‥、考えていた訳で
       は‥‥‥‥」
        『考えていたんだな』と、コンラートだけが心の中で苦笑い
       をする。
        「とにかく婚約者として、ぼくはこの下着を おまえに渡す
       訳には行かない!」
        それを合図に、ギュンターとヴォルフラムは渾身 (こんしん)の力
       を込めて引っ張り合ったのだった。
        そして当然の結果として、下着は“ビリッ”っと音を立てて
       裂 (さ)けたのである。   
        「ああっ!! ユーリの使い古 (ふる)した下着がっ!!」
        ヴォルフラムは珍しく青くなって叫ぶ。
        二人の持つ筋力差のためか、下着の大部分がギュンターの手
       に渡ってしまっていた。
        ヴォルフラムの手に残ったのは 僅 (わず)かな部分だけだ。
        その布切れには読めないが、何やら文字のようなものが書か
       れている。
        一方 ギュンターの方は、下着が裂けてしまった事は残念で
       はあるものの、下着(であったもの)の大半が手に入ったので
       満足の笑みを顔中にたたえていた。
        「どうやら陛下の聖なる下着は私の物となったようですね。
       決着もつきましたし、私は執務が溜まっているのでこれで失礼
       します」
        そう言ってギュンターは部屋を後にしてしまう。
        残されたヴォルフラムはショックの為か、呆然として暫くの
       あいだ動く事が出来ないようだった。
        そんなヴォルフラムの様子を見兼ねたコンラートは、ヴォル
       フラムへ近付き、その手に握り締められている布に目をやる。
        「手を開いてヴォルフ」
        コンラートは優しい声音で弟に声を掛ける。
        「おまえは婚約者なんだし、陛下の下着ならこの先いつだっ
       て手に入るかもしれないだろう? だから ちょっとだけ手を
       開いてごらん」
        ヴォルフラムは現在 兄に反発中である事も忘れ、ゆっくり
       と手を開く。
        その掌 (てのひら)には白い布の断片があった。
        コンラートはその布の切れ端に書かれている文字を読む。
        「‥‥‥‥メイド・イン・ジャパン。これはユーリの住む国
       で作られた下着らしい‥‥‥」
        その言葉に、ヴォルフラムは ようやく生気を取り戻す。
        「本当か!? これにはユーリの国の言葉が書いてあるの
       か?」
        「俺が読んだ部分は英語だけど、確かに日本製と書いてある
       よ。それ以外は数字と、俺には読めない文字だが、たぶん読め
       ない部分が日本の文字だろうな」
        それを聞いてヴォルフラムは嬉しそうに微笑む。 
        「ユーリの国の文字か。これを持っているのは眞魔国広しと
       言えども ぼくだけに違いない!」
        そう言って得意の反っくり返りポーズを決める。
        例え今は遠く離れていても、ユーリにはヴォルフラムが贈っ
       た金のブローチが、そしてヴォルフラムにはユーリの国の文字
       を印刷した布がある。
        だから、淋しくはあっても悲しくはない。
        きっとお互い、見えない何かで繋 (つな)がっていると信じられ
       るのだから‥‥‥‥。
        そして当然の事ながら、後日この顛末 (てんまつ)がユーリの耳に
       も入り、ギュンターは魔王陛下に下着の残骸 (ざんがい)を回収され
       てしまうのだ。
        けれど破けた下着の一部が欠けている事にまでユーリは気付
       かなかったので、ヴォルフラムの手許に残った布は取り上げら
       れる事はなかったのである。
        ヴォルフラムは終生その布を大切にし、晩年には眞魔国の宝
       として国宝にまで認定したのだった。
        偉大なる第27代魔王陛下の腰布の一部は、眞魔国の至宝とし
       て宝物殿に飾られる事になるのだが、当の27代魔王陛下は露ほ
       ども知る由はなかった。
        因みに、その布には日本語でグ○ゼと書かれているのだが、
       それを数千年後に解読(?)したのは 転生し 生まれ変わった
       大賢者様だけであったトサ。



                               終



       またも お下品系に走ってしまいました‥‥‥(^^;)
       今回ユーリの登場はありませんでしたが、次回作は
       いつも通り「ユー×ヴォル」で頑張ります☆





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