†「まるマ」パロディ小説 8(ユーヴォル)†



◇ 愛のフォーチュン ◇



         ある午後の小春日和 (こはるびより)のこと。
         ユーリは ようやく小難 (こむずか)しい勉強から解放されると、
        自分の部屋を目指して歩いていた。
         すると ちょうど中庭に面したテラスでアフタヌーンティー
        を飲んでいるヴォルフラムとグレタの二人を見つけたのである。
         魔王陛下は二人の姿を見つけると悪戯 (いたずら)心をおこし、
        そっと近付いてヴォルフラムとグレタを驚かせようと云う気に
        なったのだ。
         二人の背後 (はいご)になる太い円柱 (えんちゅう)へ回り、ゆっくりと
        テーブルへ近付く。
         いつ飛び出して二人を驚かせようかとユーリがタイミングを
        計 (はか)っていると、美しい婚約者と可愛い愛娘の会話が聞こえ
        て来たのである。
         「それでぇ、どうなのヴォルフ? 実際に三人のを間近で見
        たり触った事があるのはヴォルフだけなんだもン、グレタにも
        教えて?」
         愛娘の可愛らしい声が聞こえた。
         「うむ。三人とも特徴 (とくちょう)があってだな、兄上は長いが
        それほど太くもないな」
         どうやら婚約者サマと愛娘は、三人の『何か』について比較
         (ひかく)をしているようだった。
         ヴォルフラムの口から『兄上』と云う言葉が出ている所をみ
        ると、グェンダルと他、二名らしい。
         「ふ〜ん。じゃあ、コンラートのは?」
         「‥‥そうだな、コンラートは短めだが、そのぶん太いぞ」
         この時になってユーリはようやく、ヴォルフラムとグレタの
        会話が怪しげな内容なのではないかと云う事に気付き始めたの
        である。
         『そ、それって男のナニの大きさの事ですか!? てゆーか、
        グレタに何て事を教えるんだヴォルフ〜〜〜っ!!』
         ユーリの心の叫びなど知らずに、ヴォルフラムとグレタの話
        は更に進んで行く。
         「それじゃあ、ユーリのは?」
         どうやら残る1人はユーリの事であったらしい。
         『わあぁ〜〜〜☆ 頼むからヤメテくれ〜〜〜!!』
         ユーリは恥ずかしさあまり身悶 (みもだ)える。
         『俺だってビッグでマグナムな息子の持ち主だったら 少し
        くらい言われたって構わないけど、よりによってグウェンダル
        やコンラッドと比べられるなんて最悪だ〜〜〜!!』 
         しかしユーリがどんなに嘆 (なげ)こうとも、天使のような美し
        い婚約者から最後の審判は下される。
         「‥‥‥ユーリか、あいつのは見た目でも分かるように短い
        し、とても細いんだ グレタ」
         婚約者のその言葉に、魔王陛下はカクンと肩を落とした。
         『‥‥‥‥終わった‥‥。俺の男としての人生が今 終わり
        を告げたんだ‥‥‥‥』
         ユーリは男としてのプライドと、父親としての沽券 (こけん)
        砂の城のように崩れ去った気がした。 
         そんなユーリに追い討ちが かかる。
         「やっぱりユーリのが1番 細いんだね。細いと大変じゃな
        いかなぁ? グレタ心配だよ? ヴォルフはそれでいいの?」
         ‥‥‥‥愛娘は時として残酷な事を言う。
         「ぼくは婚約者として別に気にしないぞ。それに太い方が
        色々 大変だと聞いたからな。要は強さの問題だから、持久力
        さえあれば大丈夫だろう。‥‥‥もっとも、未 (いま)だユーリ
        のを試した事はないが、愛さえあれば どうにかなるだろう」
         フォローになっているんだか いないんだか、婚約者サマは
        寛大(?)な心の持ち主のようだ。‥‥‥たぶん。
         しかしユーリはこれ以上 二人の会話を聴き続ける事が出来
        ず、肩を落としながら静かにその場を立ち去ったのである。
        (‥‥‥‥涙の大嵐)



         それから三日間、ユーリは先日 立ち聞きしてしまったヴォ
        ルフラムとグレタの会話を思い出しては居たたまれずに、溜
        め息ばかりを吐 (つ)いて日々を過ごしていた。
         勿論、ヴォルフラムやグレタの前では何でもない風を装い
        明るく振る舞っているのだが。
         そんな時、眞魔国広報部から異例の号外が発行されたので
        ある。
         だがしかし、今のユーリにとって世間で騒がれている新聞
        ネタなど どうでもよい事であり、目の前にある自分の悩みを
        解決する方法を探す方が重要だった。
         『アレって、鍛 (きた)えて太くしたり出来ないもンかなぁ…』
         誰かに相談しようにも、こんな事を相談できる相手など思
        いつかなかった。
         『ふぅ〜〜〜〜。』
         更に盛大な溜め息が出る。
         「どうしたんだユーリ? 元気だけが取り柄 (え)のお前が、
        ここ最近 暗い顔ばかりしてるじゃないか」
         勉強の中休みと言う感じで、一息いれる為にイレブンジス
        ティーを飲んでいたユーリは、執務室へ突然訪れたヴォルフ
        ラムに開口一番 質問をされた。
         かなり思い詰めていたので、ユーリはヴォルフラムが部屋
        へ入って来た事にすら気付かなかったのである。 
         さすがにいつも1番近くにいるだけあって、どうやらヴォ
        ルフラムはユーリのボルテージが下がっている事に とっくに
        気付いていたのだ。
         が、暗い原因の張本人様でありながら、ヴォルフラム自身
        は実に嬉しそうな顔をしている。
         エメラルドグリーンの瞳までキラキラと輝いているのだ。
         「ベ、別に俺は暗い顔なんかしてないし、元々こーゆー顔
        なんだよ」
         ユーリは早口に言うとヴォルフラムから顔を背ける。
         悩みの理由を訊かれても言える筈がないのだから。
         だが、その行為がよけいヴォルフラムの言葉を肯定してい
        る事にまで、今のユーリは頭が回らなかった。
         そんな、少し意固地気味のユーリを見たヴォルフラムは、
        これ以上追求しても無駄だと思ったのか、軽く肩を竦 (すく)
        ると、今度は話題を変えて話しかけて来る。
         「まぁいいだろう。今から言うぼくの話を聞けば、たちど
        ころに どんな悩みだって吹っ飛んでしまうに違いない」
         そう宣言すると、ヴォルフラムはお得意の反っくり返り
        ポーズになり、意気揚々と話し出す。
         「喜べユーリ。お前は無事に婚約者としての使命を果たし
        ぼく達の未来を勝ち取ったのだからな」
         ヴォルフラムが何を言い出したのか全く見当のつかない
        ユーリは、そのままヴォルフラムの次の言葉を待った。
         けれどヴォルフラムが喋り出すより早く、執務室のドアが
        開けられ、グレタを先頭にコンラートとギュンター、そして
        アニシナが部屋にドカドカと入って来たのだ。
         「ユーリ、良かったね! ユーリのが1番強くて長持ちし
        たよ」
         グレタが楽しそうに言う。
         「陛下は健康的で若いですからね。アレは鍛えたくとも
        鍛えられませんから、最初からユーリが勝つだろうとは思っ
        てましたよ」
         コンラートが穏やかな顔で微笑む。
         「陛下〜、おめでとうございます〜〜! わたくし個人と
        しては思う所もありますが、王佐としては陛下を誇りに思っ
        ております〜〜〜」
         ギュンターは嬉し泣きなのか、悲しんでいるのか分からな
        い涙を浮かべている。
         「え、え、え? みんなして何を言ってんの? 俺がどう
        したって?」
         何を言われているのか さっぱり解からないユーリは、問い
        かける瞳で周囲を見まわした。
         そんな中、1番落ち着いているように見えるアニシナが事
        の次第を語ってくれた。
         「今朝、眞王廟において陛下とヴォルフラムの『婚姻の占
        儀 (せんぎ)』が行われたのですわ」
         「婚姻の占儀?」
         ヴォルフラムと婚約している事は既に眞魔国中の誰もが知
        っている事であり、今更 結婚するかどうかを占う必要はな
        いと思うのだが。
         しかも当の本人達は婚姻の占儀とやらには出席していない。
         「お二方の結婚生活が上手く行くかどうか、そして花婿が
        どれだけ伴侶を愛しているかを占う大切な儀式なのですよ」
         そうは言われても、占いなんて100%当たるとは思えない
        ユーリは、その儀式を結婚前の余興 (よきょう)だろうと思った。
         何しろ先程『勝つ』だの『長持ち』だの『鍛えられない』
        だの、およそ占いとは関係なさそうな言葉を聞いたばかりな
        のだから。
         「あのね、ユーリのは見た目が細くて短いけど、コンラー
        トとグウェンダルに勝ったんだよ! だからユーリとヴォル
        フの結婚生活は『あんたい』で、ユーリがヴォルフをスゴク
        愛してる事が『しょうめい』されたんだって! ウルリーケ
        が世界一 幸せな夫婦になるって言ってたよ♪」
         グレタは自分の事のように嬉しそうに話した。
         ヴォルフラムも愛娘の言葉に気を良くしたのか、腕を組み
        ながら自慢げに言う。
         「まぁ、お前がぼくにベタ惚れなのは分かっていた事だが、
        眞王廟で証明された事は号外が出ているから、今夜は国中で
        ぼく達の事を祝ってくれるぞ」
         「‥‥え? 朝から号外が出回ってるのは知ってたけど、
        あれってその占いの結果についてだったの? ってか、号外
        を出すほど重大な事な訳??」
         地球生まれのユーリにはイマイチ理解できない風習という
        か慣例だ。
         そもそも、どんな占いをしたのかさえユーリは知らない。
         「眞王廟でする占いってどんなの? 眞王が占ってくれ
        るからそんなに騒いでるのか?」
         ユーリの疑問にコンラートが答えてくれる。
         「直接 眞王が占う訳じゃありませんけど、ウルリーケが
        霊廟の前で二人の占いをしてくれるんです。どんな占いか
        と云うと、求婚者の髪の毛と、求婚された側の年長者の親
        族二人の髪の毛を、真ん中あたりで絡ませあって引っ張る
        んです。で、どちらが切れたかを見る占いなんですよ」
         「はぁ〜? そんなのが占い?」
         コンラートから説明を聞いたユーリは気が抜けたように
        なった。
         それって子供がよくする遊びじゃないか、と。
         確かに、自分と好きな人の名前を紙に書いて、紙縒 (こよ)
        りにしてから絡ませて、左右に引っ張りあう占いなら中学
        時代に女子達がやっていたのを横目に見た事はあった。
         だがそれが当たったという話は聞いた事がない。
         そんなユーリの心中を察してか、ギュンターは教育係と
        して ここぞとばかりに話しに割って入る。
         「いいえ、陛下。これは眞魔国建国当時から伝わる由緒
        正しき占いでございます。古来より髪の毛には魔力が備わ
        っていると言われ、人の運命を左右する時に使用されるマ
        ジックアイテムなのです。現に、漆黒の御髪 (おぐし)である
        陛下はグウェンダルやコンラートの髪に勝ったではありま
        せんか! 2対1の戦いに勝利するなんて、流石は わたく
        しの陛下です!!」
         ギュン汁を垂らしながら言われても困るのだが。
         因みに、眞王廟で直接ウルリーケが占うのは王族と、十
        貴族直系の者の婚姻だけであり、通常の貴族や市民達は街
        の祭司や村の村長が巫女の代理で行っている。
         「単に運が良かっただけかもよ? だいたいコンラッド
        が最初に言ったように、俺のが若かったから勝ったんじゃ
        ないかな‥‥」
         しかも魔王だけあって、質の良いシャンプーやトリートメ
        ントが湯殿に置いてあり、いつもそれを使っている。
         ユーリの言葉を聞いて今度はアニシナが説明を始める。
         「この占いで完全勝利をしたのは200年振りだと言われて
        います。大抵が引き分けに終わり『求婚者は親族と同様に
        伴侶となる者を愛していて、親族同様の温かい家庭になる』
        と言う結果になるのです」
         だから、若い求婚者の瑞々 (みずみず)しく張りのある髪1本と、
        親族側の年老いた髪2本とでは強度的に同じなのではないだ
        ろうか‥‥とユーリは思うのだ。
         別にコンラッドとグウェンダルが年老いてるとは思わない
        が、戦場へ赴 (おもむ)いているコンラッドが髪の手入れにまで
        気を遣う筈もなく、ましてやグウェンダルに至っては、常に
        アニシナという脅威 (きょうい)の生き物に命の危険に晒 (さら)され
        続け、精神的ストレスによって毛根が死の崖 (がけ)っぷちにい
        るようなものなのだ。
         そんな二人の髪の毛と自分とでは耐久性が違ってもしょう
        がないだろうと思う。
         これがもし、ツェリ様相手だったら勝つ自信は1%も無い。
         あの見事な黄金の巻毛を保つ為に、相当の金と手入れの時
        間を費やしているだろうからだ。
         「そう言えば、グウェンダルはどうしたんだ? みんなが
        揃 (そろ)ってるのに一人だけいないなんて‥‥‥」
         ユーリが ふとした疑問を投げかけると、アニシナ以外の
        全員が顔を強張らせた。
         「グウェンダルなら先程から特訓中ですわ陛下。いくら陛
        下が相手とは言え、あんなにあっさり勝負に負けるなど、男
        として情けないと思いましたから、私が開発した髪の魔力を
        高める『カミサマ・フォーチュン』で髪を鍛え直している所
        です。本当に最近の男は弱くなりました」
         「へ、へェ‥‥‥」
         どんな機械なのか聞きたいような聞きたくないような‥‥。
         恐らく聞いてしまったら自分まで地獄を見るのは明らかだ
        ろうと思い、ユーリは口を噤 (つぐ)んだ。
         何しろコンラッドも言ってた通り、髪を鍛えるなど本当に
        出来るのかも分からないし、例え髪を鍛えて強度を上げたと
        しても、普通の生活を送る上では全く利便性を感じない。
         ユーリは ただただグウェンダルの艱難辛苦 (かんなんしんく)
        早く終わるよう祈った。
         余談だが、コンラートは元々 魔力が無いため免除されたの
        である。



         その夜、侍女が寝室に運んでくれたナイトキャップティー
        をヴォルフラムと飲みながら、ユーリは何気ない質問をした。
         「そういや、昼間言ってたあの占いって当たるの?」
         ギュンター曰 (いわ)く、眞魔国建国から続いている由緒正し
        き占いなのだから、相当高い確率で当たるのかもしれない。
         そうでなければ とうの昔に廃 (すた)れていたに違いない。
         その考えを裏付けるように、窓から見える王都では、確か
        にいつも以上に煌々と明かりが灯っているのが見渡せる。
         きっとこの占いの結果とやらを国民みんなが祝ってくれて
        いるのだろう。
         「お前は魔王でありながら、眞王の在 (お)わす霊廟で行わ
        れた厳正な占いを疑うのか? いや、何より、占いの結果が
        当たっているかどうかを1番知っているのはユーリ自身じゃ
        ないのか?」
         ヴォルフラムの探るような問いかけに、ユーリは己の心を
        見詰め返した。
         『俺はヴォルフラムと一緒に、楽しくて幸せな家庭を築き
        たい』と思っている。
         『心から溢れるほどの愛しさで、この世の誰よりもヴォル
        フラムを愛している』と胸を張って自分に言える。
         「確かにそうだな‥‥。当たっているかどうかは俺にしか
        分からないな」
         ユーリの呟 (つぶや)きに、ヴォルフラムは薄 (うっす)らと微笑む。
         「だろう?」
         どうやらヴォルフラムも答えを確信しているようだった。
         「でも今更ながらに、相手がツェリ様じゃなくて良かった
        と思うけど」
         コンラッドとグウェンダルだからこそ、ユーリは勝てたよ
        うな気がする。
         ユーリの言葉にヴォルフラムが頷きながら答える。
         「最初は年齢を考えて母上のが良いのでは、という意見も
        ギュンターから出たんだが、その後グレタと二人で検討した
        結果、コンラートとグウェンダルの方が良いだろうと言う事
        になってだな」
         ヴォルフラムのその言葉に、ユーリは『ん?』と思い当た
        る部分があった。
         そう言えば、昼間もグレタが『見た目が細くて短い』とか
        『長持ち』とか言ってなかっただろうか?
         まさか‥‥、と思い、ユーリはヴォルフラムに尋ねた。
         「グレタと二人で検討したってのは、もしかして三日前の
        テラスでの事‥‥‥とか?」
         あの日、ヴォルフラムとグレタの会話を聞いてしまったユ
        ーリは、男のプライドがズタズタになったのだ。
         「何だ側にいたのか? 不正を防ぐ為に、求婚者であるユ
        ーリには秘密にして行わなければいけなかったんだが」
         「あ、いや、占いの事とか、髪の毛について話してたとは
        思わなかったから、すぐに立ち去ったし‥‥‥‥。それより
        どうやって俺の髪を手に入れたんだ?」
         立ち聞きの件をこれ以上追求されては困ると思い、ユーリ
        は微妙に話題をズラした。
         何はともあれ、アノ会話がナニについてではなかった事で
        ユーリの悩みは一気に解決されたも同然だった。
         「髪の採取は お前に限らず公正を規する為に、全員 朝方
        枕元に落ちていたモノを使用したらしい」
         「へえ〜、本当に徹底してるんだな」
         「そんな事よりもユーリ、お前は明日から大変だぞ」
         ヴォルフラムは多少、同情の混じった瞳でユーリを横目に
        見上げた。
         「はぁ? どうして俺が大変なんだ??」
         「アニシナが言ってただろう。あの占いで完全勝利になっ
        た者は実に200年振りなんだ。しかも占いには伝説があって
        その完全勝者の髪を手に入れたカップルは、同様に末永く幸
        せな結婚生活が送れると信じられている。因みに男性はハゲ
        防止にもなるらしい。‥‥‥あくまで伝説だが」
         「そ、それって‥‥」
         「そうだ。幸せになりたい恋人達や、ハゲを気にする男達
        がお前の髪を狙って押し寄せると言う事だ」
         「そ、そんなぁ〜、嘘だろ〜〜〜」
         そんな大勢に毟 (むし)り取られたら、ユーリの方がツルツル
        になってしまいそうだ。
         「10日だ。髪の御利益 (ごりやく)があるのは婚姻の占儀から
        10日目までと云われている。だからそれを乗り切れば、もう
        狙われる事はない」
         そうは言われても、それまでの10日間は台風以上に大変な
        思いをしそうだった。
         「くそ〜、だいたい、こんな占いを考えて流行らせた奴が
        いけないんだ。もし建国当時に俺が生きてたら、絶対こんな
        占いは廃止するべきだって言ってやったのに」
         「昔は娯楽が少なかったのだろう。それに文句を言いたい
        のなら、今度直接 本人に言えばいい」
         「え? だって建国当時に流行った占いなんだろう? 直
        接言えって事は、まさか眞王が考えた占いなのか? だから
        眞王廟に行って直接 眞王に文句を言えって?」
         「まさか。 占いを考え出す程 眞王は暇 (ひま)ではないし、
        勇猛な武人であられたのだから、占う側ではなく、占っても
        らう方だった筈だ」
         「じゃあ、一体誰なんだよ?」
         ユーリのその言葉に、ヴォルフラムは相変わらずニブイく
        て へなちょこだな‥‥と言う視線を送ると、本日 何度目か
        の反っくり返りポーズになった。
         「そんなの双黒の大賢者に決まっているだろう」
         それを聞いたユーリの脳裏に、今頃地球で のほほ〜んと暮
        らしているだろうムラケンの笑みが浮かんだ。
         「あいつか〜〜〜」
         確かにムラケンなら何をするか解からない。
         それに、この占いの事で文句を言ったとしても暖簾 (のれん)
        腕押し、糠 (ぬか)に釘のような気がする。
         何を言っても動じず、のらりくらりと躱 (かわ)されてしまう
        のがオチだろう。
         そもそも数千年分の記憶がある大賢者だけに、言葉でムラ
        ケンに勝てる訳はないのだ。
         「てゆーか、大賢者が作ったと判明した今、あの占いは
        眉唾物 (まゆつばもの)としか思えないゾ☆」
         きっと面白半分で作ったに違いない。
         「それはどうか分からないが、大賢者が考案した占いは他
        にも沢山あるし、婚姻までのあいだ、まだいくつかの『占い
        の儀』が残っているからな。お前も少しは身体を鍛えた方が
        いいかも知れないぞ?」
         「‥‥えぇぇ☆ まだ占いすンの?? だいたい身体を鍛
        えた方がいい占いってどんなのだよ? 野球とかサッカーの
        試合なら良いけどサ」
         「つまり、‥‥‥‥アレのサイズとか‥‥ソレの最大膨張
        サイズとか‥‥回数とか‥‥‥だな。‥‥‥‥まぁ、色々だ」
         『アレ』とか『ソレ』のサイズ、そして回数‥‥‥?
         何やら よからぬ予感がする。
         「あのォ、肝心な所をハッキリ言って欲しいんですがね?
        アレやソレって何の事でしょう?」
         ユーリは恐る恐る尋ねたが、ヴォルフラムはフイッと顔を
        背 (そむ)けると、怒ったように捲 (まく)し立てる。
         「そんな はしたない事を、ぼくの口から言える訳ないだ
        ろう!? お前は婚約者を辱 (はずかし)めて楽しいのか? 悪趣味
        だぞユーリ!」
         いや、だから王子様が口に出来ないような端 (はし)たなくて
        恥ずかしい事を、『占い』と称してユーリにさせようと言う
        方が、よっぽど悪趣味だと思うのだが‥‥‥‥。
         だがしかし、わがままプーに世間一般の常識は通用しない
        のだ。
         そしてそんな わがままで常識無用の可愛い王子様を、
        この世の誰よりも愛しいと思ってしまう魔王陛下なのだか
        ら、もはや付ける薬はどこにもない。
         きっとこの先の人生も、ヴォルフラムと云う、小台風の
        ような美しい魔族の少年に振り回される運命に違いないと
        ユーリは思った。
         しかしそれこそがユーリの幸せであり、生きる意味に繋
        がっているのだ。
         ユーリは隣りに座るヴォルフラムを見詰めると、言葉に
        力を込めて言う。
         「分かった。占いでも何でも頑張るよ。ヴォルフと生き
        る為に。二人で幸せになる為に。それでもって俺達を祝福
        してくれる眞魔国のみんなが幸せに暮らせるように。‥‥
        ‥‥どんな運命でも、ヴォルフとなら、共に立ち向かって
        行ける気がするんだ。ヴォルフがいるから俺は頑張れる」
         ユーリの熱のこもった真摯 (しんし)な言葉に、ヴォルフラ
        ムは一瞬、目を瞠 (みは)った後、極上の笑みを返した。
         「おまえだけに頑張らせはしない。ぼく達は最高のパー
        トナーなのだから、おまえの背負った重荷の半分は ぼくが
        背負ってやる。 だから嬉しい時、苦しい時、哀しい時、
        どんな時でも必ず ぼくを思い出せ」
         魔王とその婚約者は互いに見詰め合うと、どちらからと
        もなく自然に体が重なりあい、キスをしていた。
         やがて、蜜蝋に照らし出された二人のシルエットが寝台
        へと移動すると、微かな衣擦 (きぬず)れの音と共に、恋人達
        の睦みあう甘やかな囁 (ささや)きが聞こえて来るのだった。
         「‥‥愛してる‥‥ヴォルフ‥‥」
         「ユー‥‥リ‥‥ぼくも…愛‥‥してる‥‥‥」 
         「知ってるよ‥‥だってヴォルフが‥‥俺に‥‥愛する
        事の素晴らしさと‥‥意味を‥‥‥教えて‥‥くれたんだ
        から‥‥‥‥」
         そうして二人は、互いの想いと情熱を身体で伝え合う為
        に、深く深く繋がりあった‥‥‥。
         それは、新たな運命の始まりであったのかもしれない。
         二人が1つとなり、同じ未来を進む為に‥‥‥‥。






                               終



      何とか進展しました。今回、二人のシーンはアッサリめにした
      のですが、濃厚な方が良かったでしょうか??  実を言うと、
      このお話はWEBにアップする2年位前に書いたモノです。 てか、
      アップするのが遅くなってすみませんでした(汗) 他にもいく
      つか書きかけがあるのですが‥‥。
            





前のページへ戻ります

HOMEへ戻ります
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送